azumur

2017.11.01
テキスト:柊明音

予定調和の人生ほどつまらないものはない

 外食はたまに利用するくらいで、家庭料理を食べるほうが圧倒的に好きだ。でもこの日は冷蔵庫が空っぽになってしまったので、昼食は和風納豆パスタを料理し、夕食は近所のラーメン屋でと早いうちから決めていた。

 昼食後に日記の続きを書こうとした。三行くらい書き始めてから全然進まない。なんだかまったく気が乗らず、それに対して一人で落ち込んだりもしていた。

 どうしてなのかと深く考え込んでみたところ、答えは明白だった。その日に書こうと思ったことは、その日にしか書けないのだ。

 昨夜は「明日もこのテーマを掘り下げてみよう」と考えていたのだけど、朝起きたら別のことが書きたくて仕方なかった。その素直な気持ちを無視しようとしたから進まなくなってしまった。

 日記というものは、その日その瞬間の自分を素直に出すためにある。アナログな日記帳にしろデジタルの日記にしろ本質は変わらない。私は私のために、この場所を産んであげたはず。

 自分にとっての日課やライフワークであっても、誰かにお金をいただいて原稿を執筆しているわけではないので、鞭を打つように書くというのはポリシーに反する。自然に、息をするように、深呼吸するように、リラックスしながら言葉を紡いであげたいし、紡ぐというよりは言葉をぽろぽろとこぼしてしまうような感覚。

 自分の気持ちを整理することはできても、一度手放してしまったものは簡単には戻らない。今は書くときではないと割り切って、昼下がりの窓から漏れる光を「綺麗だなあ」と見つめたりして、のどかな時間を過ごしていた。

 「そういえばあのひとはまだ日記を書いているのかな?」「最近何をしているのかな?」。ある人物が脳裏に浮かんだ。彼のブログを覗いてみたら、最近読んで面白かった本がいくつかサラッと紹介されていて、その中の『ぼくだけがいない街(三部けい)』という漫画が妙に心にひっかかったので、キンドル経由で購入して読み始める。

 いつのまにか水を飲むことも、お腹が空いていることも忘れるほどに夢中になっていて、時刻は二十一時を回っていた。もうラーメン屋には行きたいと思わなくなっていた。

 その日その瞬間に食べたいと思ったものが一番美味しい食事だし、今日の夕飯はこれだと決めたらめったに変えないのだけど、あれほど固く誓った自分の気持ちすら数時間後には曖昧だったので、なんだか面白いなあと微笑を浮かべる。

 自分の感情すら不確定で曖昧なのが人間という生き物。だから今日も明日も毎日変わっていく。未来は誰にもわからない。どれだけ胸を高鳴らせて朝が始まったとしても、夜には落ち込んでいるかもしれない。たった数時間先の自分の気持ちすらわからない。だからこそ、人生って面白い。

 予定調和の人生ほどつまらないものはない。今読んでいるこの作品も、今日出会うことなんて想像もしていなかった。気晴らしに本を開いたとき、これほど集中力を強いられる作品とも思っていなかった。読み終えるまで眠れない。

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