azumur

2018.09.01
テキスト:柊明音

昼間のネオン・デーモン

 九月一日、土曜日。猛暑な夏との別れも日に日に近づく一方で、私は普段と変わらぬ休日を過ごしている。

◎九時
 前日にお酒を大量に飲もうが控えめに飲もうが全く飲まなかろうが、この時間に自然と目が覚める。平日が寝不足気味なのもあって、金曜日の夜から土曜日の朝にかけて安心したかのように眠り込む。まずは口をゆすいだあとにコップ一杯の水を飲み、珈琲を淹れて、煙草を吸う。この習慣は平日と変わらないが、時間に縛られていないので感じ方がまるで違う。

◎十時
 何本かの煙草と二杯の珈琲を嗜んだあとは歯磨きをする。口に残ったアルコール特有のあの嫌な感じを一刻も早く取り除かなければ、とても一日を快適に過ごすことなんてできない。忙しいときでも十分くらいは磨くが、休日になると三十分くらいかけて丁寧に磨きたくなる。

 せっかくなので何かしら見ながら歯を磨く。今日はケンブリッジで開催されたビョークのライブを見ながら歯を磨いていた。アルバム『ホモジェニック』を抱えて歌う彼女。ライブの内容も圧倒的で素晴らしい。

 最後の曲である『ヨーガ』は、すべてのライブの中でも一位か二位を争う。サビに進む前に少し溜めて、弦楽器の演奏者たちになんともいえない淡い視線を送り、それに応えるかのように各々が微笑みながら弦楽器を鳴らす。私が見てきた中で最も多幸感に包まれている光景の一つだ。

 初めて見たとき「なんて美しいのだろう」「真実がここに在る」と、激しく感動したのを今でも覚えている。あれから数年が経ち、私が立っている場所はあまりにも不安定で、いつ崩落してもおかしくはない状況へと変貌してしまった……。

◎十一時
 この時間帯になると朝食を抜いているのもあってお腹が空いてくる。今日は和風納豆パスタを食べた。相変わらず美味しい。家でちゃんと料理したものを食べるとホッとする。よっぽど美味しいものでない限り、外食はしたくない。

◎十二時
 アマゾン経由で購入した映画『ネオン・デーモン』を見ようと思い、散歩がてら近所の自販機までコーラを買いに行く。一日一度も外を出ないのは健全的ではないのでちょうどいい。部屋で何か夢中になって取り組んでいるときは全く外に出なくても気にならないが、そうでもないときは外の空気を吸い、ちょっとでも歩きたい。

 本当は午前中に何かを書きたくて書きたくて仕方なかったのだが、なんだか小難しく考えすぎているせいで上手く手が動かず、その「やろうと思ったことができなかったこと」に対して軽い自己嫌悪に陥る。そういう状態になると他にやろうと考えていたことや、やるべきことまできなくなってしまうのが私の最も悪いクセだ。あまりにも酷いと趣味や娯楽といったものすら素直に楽しめなくなってしまう。

 その気分を引きずっても仕方がないので、気持ちを入れ替えるように映画を再生した。序盤の方で「この映画は夜に見るべきだ」と思った。映画館のように部屋を真っ暗にして、他の何もかもが視界に入ってこない環境で鑑賞したい。それにこの作品は昼間よりも夜の方がずっと似合う。

◎十七時
 一階の自室でモニターとにらめっこしたり、二階に上がっては水を飲んだり珈琲を淹れたり煙草を吸ったりを繰り返す。自分と向き合い、自己と対話していると形容すれば聞こえはいいが、実際は無駄な時間が過ぎ去っているだけだ。やっかいなことに、完璧主義なのもあってモヤモヤした黒い気持ちを抱え込んでしまうのだろう。全力を尽くすのと完璧を目指すのは似ているようで全然違う。

 完璧主義者であること自体は悪くないのだが、実現不可能なことに挑むのは愚か者だ(今回の場合は実現しないままに時間だけが過ぎていくことを指す)。少なくとも、ただただ時間を無駄にしているという罪悪感を私は抱いてしまっているのだから。

 そんなことを考えながらテキストエディットにキーボードを打ち込んでいたら、十七時を知らせるチャイムの音が部屋まで届いた。

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