azumur

2018.09.16
テキスト:柊明音

三日月と樹木希林

 夕暮れまえ、一段落したところでお風呂に湯を張った。まだ陽のあるうちにゆったりと浸かる湯船が好きだ。永遠とも思えるような時間をもたらしてくれる。ついつい飲みすぎてしまって抱えた若干の気持ち悪さは、ずいぶんまえに抜けていた。

 良いことも、悪いことも、何もかもが身体中から流れていく。積み上げた糧も、積んでしまった過ちも、すべてを抱えてどこか遠くに流れていく。人は毎日生まれ変わって死んでいく生き物だ。少なくとも私はそうだ。

 淡くて、優しくて、まんまるとした気持ちに包まれながら二階のリビングでくつろいでいた。まったく見る気もしないテレビが流れている。私はいつも通り自分の領地まで意識を広げながら、実のある時間をおくっていた。

 気にも留めていなかったテレビから、聞き慣れた名前と訃報を知らせる声が流れる。樹木希林さんが亡くなってしまった。ここ最近のニュースでいちばん驚き、いちばん悲しみによく似た複雑な気持ちを抱く。万引き家族はまだ観れていない。

 ふと夜空を見上げてみたら、異様なまでに美しい三日月がぽつんと在った。形容しがたい感情をそっと抱きかかえて、私は空に向かって乾杯した。

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