azumur

2018.09.16
テキスト:柊明音

神のみぞ知る世界

 遠い昔、まだ私が若いころに抱いていた様々な葛藤は、もしかすると今は持ち合わせていない。あのころ抱いていたのは自己だとか何だとか、大雑把に表すなら宇宙規模の問題だったのだと今なら思う。

 恵まれた環境においても「そういうことじゃない」「そういうことを言いたいわけじゃない」「なんで疑問に思わないの?」「なんで無視できるの?」「なんで余所見ばかりして自分と対話しないの?」とか、まあ色々と、若気の至りという一言で表したくもないのだが、そうとしか思えない感情を抱いて生きていた。

 十年前は素直に受け入れることができなかったけど、今の私なら喜んで受け入れられることって意外と多い気がする。当時は自分の身の回りに対して、とても「恵まれていた」なんて考えには至らなかった……否、感謝の気持ちはあれど、今ほど強い気持ちは抱いていなかったはず。それは、たぶん、似ているようで、ちょっと違う気持ち。今だからこそ「ああ、私はとっても恵まれていたんだなあ」と、しみじみ思う。

 さながら映画『スタンド・バイ・ミー』のようだ。歳を重ねて、得たり失ったりを繰り返して、今ここに立っているからこそわかるもの。「あのころのような友人はもう二度とできない」。大人になった主人公が抱いたレモンケーキの独特のさびしさ……。

 これまでの人生すべてが最高だったと言う気もまったくない。振り返ってみると「よくぞ生き延びることができたな自分」と思えるほどの過酷な環境に身を置くハメになったこともある。

 それでも、すべてが悪かったわけではない。甘くて美しい時間を過ごした時期は在った。あれから十年ばかし経ち、当時の私からすればなんてくだらないことで苦悩しているのだろうかという問題に直面している。環境が変われば、問題も変わるのは当然か。

 しかし、どうも私はポンコツだけど負けず嫌いなようで、こうして今日もしぶとく生きている。このさき何が待ち構えているのか、どんな結末が待ち構えているのか誰も知らない。神のみぞ知る世界だ。それならせめて、私は手足を動かし続けるとしよう。

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